北九州の日本料理の名店として高い評判を得ていた『馳走 なかむら』。2016年3月、博多へ移転してからは店づくりに一層磨きをかけ、さらなる高みへと進化し続けている。玄関を開けると、カウンターや部屋に着くまでに季節を飾り、また食事の合間にふと横を見ると季節を飾っている。料理、空間、景色三位一体となる時間を堪能できる。
店主の中村亨氏は、奈良『菊水楼』、『卯之庵』で7年修業を重ね、故郷である北九州へ。そこで地元の食材をより深く知るために水産物の卸売市場で1年、市場の鮮魚店で2年働き、料理人とは異なる視点から、魚介の扱いや仕入れ法を見出す。2002年、30歳で北九州に『馳走なかむら』を開業し、二つ星に輝いている。
現在の店舗は、京都の建築家・杉原明氏が手掛けたもので、石畳のアプローチを抜け店内に入ると、まるで京都の茶室がそこに現れたかのような非日常感溢れる空間が広がる。京都から仕入れた聚楽土、柱、石畳など選び抜いた素材が用いられた本格的な数寄屋造りで、店のコンセプトに掲げる『市中の山居』の世界観が見事に表現されている。
コースは、書道家の甲斐玲子氏の指南を受けた女将が手書きしたお品書きを手渡され、その日の料理はスタートする。季節の味覚を伝える先付に、出汁と旬の素材とが見事に調和したお椀、目にも鮮やかな八寸……。炊き立てを供されるかまど炊きのご飯や、最後の抹茶に至るまで、いずれかの皿が抜きんでて突出しているのではなく、すべてが高次元で推移していくのが、中村氏が理想とする懐石料理の在り方だ。さらに、季節ごとに使い分けるという器は、茶の湯の遊び心を取り入れたものや美濃焼、九谷焼など250~300種類を使い分けており、器にこめたもてなしの心を感じながら五感で料理を楽しむことができる。
客席は、カウンター7席と、個室2部屋の計14席。皿の上の料理だけにとどまらない懐石料理の奥深さや、御節句などの伝統行事など、現代人が失いかけている日本の文化も気づかせてくれる名店だ。
■アクセス
福岡市営地下鉄空港線「中洲川端」駅より、徒歩8分