京都の市街地からバスで約90分、車で約1時間の花背(はなせ)という自然に囲まれた奥座敷にたたずむ『美山荘(みやまそう)』。平安末期、鳥羽法皇の勅願(ちょくがん)により建設された「峰定寺(ぶじょうじ)」の門前に、明治半ばごろ、宿坊として開かれたことが同店のそもそもの始まり。100年以上の歴史を紡ぐなか、現在は二つ星の料理旅館としても知られており、四代目主人・中東 久人(なかひがし ひさと)氏が、先代より受け継ぐ独自の懐石料理である「摘草(つみくさ)料理」を提供する。
中東氏は、高校卒業後、フランスのパリ大学ホテル経営学科にてホテル経営学を学ぶ。その後、フランスの二つ星『ヴィヴァロワ』や、モナコ『ル・ルイキャーンズ』など、名だたるレストランにてサービススタッフとして働く。帰国後は、金沢の日本料理店で修業し、26歳の時に『美山荘』の四代目となった。「フランスで一緒に働いていた同世代のフランス人たちは、母国の歴史や文化をよく知っていて、母国を愛していた。自分も日本人として母国のことを勉強しようと思い立ち、日本の歴史や食文化の素晴らしさを継承していく為にも、家業を継ぐことを決心した」と中東氏。
『美山荘』の摘草料理は、中東氏自身が毎朝、野山に入り食材を集めるところから始まる。春はタラノメ、フキノトウなどの野草、夏は鮎、秋は天然きのこや木の実、そして冬はジビエや早春の野草。一年の季節を過ごしながら、貴重な自然の恵みを享受する。「単に食材を採っているのではなく、自分自身が自然の環境に足を踏み入れ、季節感を感じながら、いい食材を選んで採ってきています。自分の判断で選んだものというのは、人間だれしも丁寧に扱うものだから。料理は技術だけではなく、食材をおいしくしようという強い気持ちが大切。すべての料理にその想いが表れ、だからこそお客様が感動してくださるのです」と中東氏は語る。
歴史ある『美山荘』の建物は、名工・中村外二(なかむら そとじ)氏が手がけた数寄屋造り。桂川の源流に面した離れ「川の棟」には、趣の違う個室が4部屋あり、宿泊の場合は川の棟と母屋を合わせて4組まで受入れ可能で、スタッフ一同の精神性を重んじたもてなしにも定評がある。自然と宿の文化が融合した日本のオーベルジュは、訪れる人々の心をとらえて止まないだろう。
※世界的グルメガイド京都・大阪 2023年度版にて二つ星を獲得
■アクセス
地下鉄「北大路」駅より車50分〈タクシー料金 鞍馬経由 約11,000円〉
京都バス「出町柳駅」より広河原行90分 「大悲山口」下車