東京のほぼ中央に位置する立川市は、羽田空港から車で1時間。JR立川駅はJR線やモノレールが数多く乗り入れ、交通の要でありながら、昭和記念公園や多摩川をはじめ緑豊かな景観を保っている。そのJR立川駅から1駅のJR西国立駅から徒歩1分、『オーベルジュときと』は、周囲の自然をそのまま引き込んだような美しさでゲストを迎える。
『オーベルジュときと』の前身『無門庵(むもんあん)』は、立川地区では知らぬ人はいない老舗料亭だ。その歴史は、昭和初期までさかのぼる。旅館としてゲストにあたたかい食事と宿を提供し、戦後、料亭として長い歴史を刻んだ。その後継として開業した『オーベルジュときと』は、正門や庭園をはじめ歴史あるしつらえを多く残しながら、建物内部をモダンに改装し、オーベルジュとして生まれ変わった。食房と茶房のほか、4室の宿泊施設(宿房)を備える。
食房は、10席のカウンターとテーブル席22席から成る。カウンターはシェフズテーブルのような料理のダイナミズムを、また、テーブル席でも料理人がゲストのすぐ近くまで出向いて食材の説明をするような、距離の近いサービスを受けられる。双方の料理は総料理長の石井 義典(いしい・よしのり)氏、 総支配人で料理長の大河原 謙治(おおかわら・けんじ)氏と料理長の日山 浩輝(ひやま・ひろき)氏。この3名を中心にした7名の料理人チームが手がける。3人は京都の著名な老舗料亭でともに働いた後、石井氏はロンドンの日本料理店『UMU(ウム)London』を二つ星に押し上げ、大河原氏は京都の『いと』で一つ星を獲得という実績を残した。
『オーベルジュときと』の料理コンセプト「アルティザンキュイジーヌ」は、職人集団のような個性ある6名の料理人がコースを作り上げていくという意味だ。国内外のさまざまなキャリアを持つ料理人が集まり、楽しさや驚きをゲストに感じさせる新しいスタイルの日本料理を目指している。食材はこれまでの生産者との関係性を生かし、北海道や京都など、その時期その時期で最も良い食材の「瞬間」をとらえることを意識する。また、北海道の漁師集団波心会(はっしんかい)が手がけるカツオ節ならぬ「カジカ節」は、市場に出回りにくい未利用魚を、生産者とともに作り上げたもの。そのような食材を用いるのは「まだ知られていないものに価値を生むのが料理店の使命だ」と彼らが信じているからだ。
ドリンクは世界各国のワインや日本酒をそろえる。日本酒はもちろんワインやジンなどでは日本産のものを意識して多く取り入れている。アルコールペアリングも設定。北海道や山形や長野などのワイナリーは、料理人たちがこれまでの信頼関係で重点的に用いている。
「無門庵」時代から改装されたダイニングは、歴史的な重厚感を生かし、木と石と洗い出し仕上げの漆喰壁など、自然素材を多く用いてモダンに仕上げている。器は石井氏が無門庵の土や調理の炭焼きで出た灰を用いて焼いたものが多くを占める。カウンターはヒノキ、ホールのテーブルはウォールナット材で、いずれも、うつろうことが深みや味わいとなっていくような落ち着いた素材だ。カウンターとホールのほかに4名個室が3室。お子様は16歳以上、大人と同じ食事ができる人のみとなる。海外ゲストに関しては、石井氏みずから英語で料理説明が可能。デートや親しい方との食事はもちろん、食を愛する方の集いにも向いている。
店名に用いられている「とき」は、「時」であり、日本を代表する鳥「トキ(朱鷺)」の意味をもつ。様々な色に輝き決まった色がない朱鷺の羽根のように、また、“ときいろ”のように常に変化することを良しとしながら、料理人たちのさまざまな美意識でレストランの世界観は作られる。その新しさを味わいに、『オーベルジュときと』を訪れてみてはいかがだろうか。
■アクセス
JR南武線西国立駅より徒歩1分(立川駅より1駅)
羽田空港から車で1時間