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『鳥しき』から独立する注目の焼鳥職人。「上昇志向の環境で成長し、世界で焼鳥を広める夢の実現を」


Next Star Chef
~極みを目指す次世代の料理人~

新たな食の世界を広げるプログラム「Next Star Chef」。一流の料理人として走り出した若手にフォーカスし、すでに話題になりつつあるその才能をいち早く体験いただくとともにその成長と躍進を応援する醍醐味をぜひお楽しみください。次世代を担う若手料理人たちのそれぞれの思いを紹介するインタビュー記事をお届けします。


『鳥かど』大平貴紀氏

日本の焼鳥店の中でも、言わずと知れた予約困難な名店『鳥しき』。店主・池川義輝氏の下で学び独立した職人の店も次々と名店への階段を駆け上がるなか、その優秀な職人を育成する仕組みであり、世界に池川流の焼鳥を広めている同志の集まりである「鳥しきICHIMON」にも注目が集まっている。今回は、「鳥しきICHIMON」の代表である池川氏と、独立を望む若き職人たちを育成する店として知られる『鳥かど』の大将・大平貴紀氏にお話しを伺い、店づくりの考え方や今後のビジョンなどについて語っていただいた。
※取材した大平 貴紀氏は、2024年4月現在鳥しきICHIMONが新たに麻布台ヒルズにオープンした『鳥おか』にてご活躍されています。

目次


1. 池川氏の“焼鳥道”を世界に広める「鳥しきICHIMON」

2. 優秀な人材の育成に必要不可欠な“修業の順序”

3. 価値を単価に反映するために追求する仕事の本質

4. 海外経験を経て、3年の修業で独立を迎える期待のエース

5. "追いまわし"から始まる伝統の人材育成プログラム

6. いい焼きにするために重要な一流店の串打ち

7. 師匠の言葉を肝に銘じ、夢の実現に向けて次のステージへ

池川氏の“焼鳥道”を世界に広める「鳥しきICHIMON」

― 2023年1月に設立した「鳥しきICHIMON」は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?

池川氏 私は34歳で自分の店を持ちましたが、当時の焼鳥店はまだまだ居酒屋の延長線上で、料理屋としてのレベルまで成熟していないと感じていました。そんな中、海外のイベントで焼鳥を出す機会があり、このデジタルの世の中で、炭で鶏肉を焼くというアナログで原始的な手法や所作、鶏肉を細かい部位に分けて焼き分ける繊細な仕事を、海外の方から、「なんでお前たちそんなことができるんだ!」と、すごくリスペクトされた経験があり、そこで焼鳥の価値に気づいたんです。

その経験から、焼鳥というものがまだまだ世の中に伝わっていないと感じたことと、焼鳥職人の社会的地位が低いイメージもあったので、そこを変えていきたいと思いました。そして、日本の食文化である焼鳥というものをどんどん発信していくために、一人でやるよりは私の焼鳥に対する思いに賛同できるメンバーで発信していき、焼鳥職人の社会的地位を上げながら、焼鳥を通してみんなが幸せになるために結成したのが「鳥しきICHIMON」です。


私は、焼鳥職人はシェフや料理人とは少し違って、“焼鳥道”というか、武道みたいに答えがないと思っています。例えば、シェフはスープを舐めて味のチェックができますが、焼鳥は焼いたものをお客様にそのまま出すわけなので、その状態を五感で感じながら提供する必要があります。そこには技術だけじゃなくて、ものの考え方を含め、自分が成長しないといい焼きができないと思います。そこで、いい焼鳥を焼くためのものの考え方を“焼鳥道”と捉えて、その道場を世界中に広めていき、さらに各地の道場で地元の方も学べる仕組みをつくることで、地元の方から焼鳥を発信してもらうことが私の最終的なゴールです。

優秀な人材の育成に必要不可欠な“修業の順序”

― これまでも池川さんの“焼鳥道”を学んで独立した方々が、次々と人気店へと成長していますが、どのようなステップで人材を育成されているのでしょうか?

池川氏 自動車教習所のカリキュラムのようなイメージで、まず第一段階は営業前の店内の清掃や準備、営業中はホール業務を行う“追いまわし”ですね。何ヶ月やるかは人によってさまざまですが、私が次のステップに進んでも良いと判断するまで担当してもらいます。そのあとは野菜打ちや串打ち、焼きの練習をするという流れです。私は無駄な修業の時間は必要ないと思っています。ただ、初めに追いまわしを担当するように、“修業の順序”は大事です。

― 弟子を育てるなかで、特に強調して教えていることはありますか?

池川氏 私たちの仕事は単純作業になりがちですので、よく「仕事と作業の違い」を説明しています。仕事とは、しっかりとやる意味を理解して取り組んでいること、作業とは言われたことを流れでやることと定義しています。

私は、作業になった瞬間、物の価値がなくなってしまうと考えています。例えば、大量生産されているバックなのか、職人が一つひとつ手編みして作ったバックなのかで、価値が違いますよね。ですので、差別化した焼鳥を提供するためにも、一人前の職人になる土台をしっかり作る思考がないと価値を生むことはできないと思います。

価値を単価に反映するために追求する仕事の本質

― 価値を生み出すための「仕事」を行う上で、重要なことは何ですか?

池川氏 「意味の深堀り」が重要ですね。例えば、うちの店では紀州の備長炭を使っていますが、炭ひとつとっても、なぜ自然のなかにある原木から、炭というものに加工されて店に送られてくるのかという理由をちゃんと理解しないと、いい焼鳥はできないと思います。「意味と理由に仕事の本質」があると私は考えていて、このデジタルが整って簡単に情報が入る世の中で、なかなかそこまで理解できる環境は少なくなってきていますよね。

私は焼鳥が1本30円の時代から知っていますが、今はそれが我々のなかでは何十倍の値段になっています。一つの捉え方として、例えば1本200円の焼鳥を焼いたとしても、私たちが思い描いている幸せを掴むことはできないです。では、その焼鳥を1本2,000円にするには何が必要なのか。それを常に考えなさいと伝えています。

― 現在、次々と「鳥しきICHIMON」の店舗が増えている印象がありますが、良い道場を築いていくための考え方や今後の出店予定を教えてください。

池川氏 日本では焼鳥店が約4万軒あると言われていますが、限られた時間の中で「鳥しきICHIMON」の若い職人たちみんなが幸せになっていくには、各々が活躍できる場を増やすスピードを上げていかなければならないと考えています。

そして、それぞれの店の売上もしっかりと上げていかないといけませんが、無理に単価を上げるのではなく、店の空間、料理、料理を出すタイミングなど、すべてのエッセンスから生み出される価値を単価に反映させる。そうすることで、その価値が分かるお客さんに来ていただける。そういった意味で、私がいなくてもファンがついている『鳥かど』(※)は、良い道場の一つの成功例になっていると思います。

現在「鳥しきICHIMON」としては7店舗あり、2023年の9~10月は上海、10~11月は麻布台ヒルズに出店を予定しています。その麻布台ヒルズの大将を務めるのが、今(2023年5月)『鳥かど』で大将を務めている大平貴紀です。

※『鳥しき』が休みである、日・月・火のいずれかの日で、屋号を変えて不定期で営業。

海外経験を経て、3年の修業で独立を迎える期待のエース

― 焼鳥職人を志したきっかけと「鳥しきICHIMON」で働くまでの経緯を教えてください。

大平氏 元々食べることが好きだったこともあり、17歳から飲食店でアルバイトをしていました。21歳のときにサッカー留学でブラジルに行ったことがあるのですが、そこで異文化に触れて面白い体験ができたことがきっかけで、帰国してすぐにシュラスコ料理店で働きました。そのあと、縁あってメキシコのホテルのレストラン部門で働いていたのですが、その時期に「自分はこのままでいいのか」と将来について考えるようになり、「スタッフ同士で切磋琢磨していく、上昇志向の環境に身を置きたい」、かつ「日本の食文化に関わる仕事をしたい」と思うようになりました。


それが鮨なのか、天ぷらなのか、焼鳥なのかを考えたときに、今まで肉を扱う仕事をしていて、焼鳥も好きだったので、それだったら焼鳥をやろうと思い、日本のトップの焼鳥店を探しました。検索してみると『鳥しき』『鳥かど』『鳥さき』などがあがってきて、まず『鳥かど』にメキシコからお電話をして、メールのやり取りをしながら、すぐに帰国の手続きをして親方と面接することになりました。実際には『鳥しき』で修業を始めて、今は丸3年が立ち、『鳥かど』の大将を担当しています。

"追いまわし"から始まる伝統の人材育成プログラム

― 『鳥しき』では、店内清掃や準備、ホール業務などを行う"追いまわし"から修業がスタートすると伺っていますが、追いまわしをやる理由は初めから教わるのでしょうか?

大平氏 そうですね。「鳥しきICHIMON」では、人材育成のプログラムが親方の頭の中で設計されていて、逆算したときに、最終的に焼台に立つために必要なのが追いまわしで磨かれるスキルなので、第一段階の修業として取り組むと教わっています。修業する前から、一流店は初めから包丁は触らせてもらえないだろうという覚悟はありましたが、私の場合はだいたい10ヵ月程度、追いまわしを担当しました。

― 追いまわしをやるなかで、学びになったことは何ですか?

大平氏 お客様やスタッフに対する気配り、業者様がいらっしゃったときにお茶を出すといった気配りなど、人として基本的なスキルを学びました。今振り返ってみると、最終的にはサービス力となってお客様に還元できるスキルであり、考え方であることが身に染みて分かるようになりました。

― その次のステップでは、何を担当されましたか?

大平氏 『鳥しき』の伝統として受け継いでいるのが、自分の後輩が入ったときの教育係のような形で指導していく立場を1~2年担当しました。そのあとは、3年目で2番手と言われるポジションを担当しまして、現在の『鳥かど』がそうですが、親方がいないときでも店が回せるようになる立場になりました。2番手では、親方の補佐として人・物・時間の管理も行っています。

― 後輩の教育で気をつけていることはありますか?

大平氏 人それぞれの性格などに合わせて、仕事だけでなくプライベートのこともしっかり向き合って話すようにしています。それによって教え方も変わってきます。物覚えが早い人は口で言えば分かりますが、そうでなければメモを取るようにしてもらうなど。私自身、教えることは好きなので、スタッフ間のコミュニケーションは良好だと思います。あとは、感情的にならずに接するというのが親方の教えなので、感情を抜きにしてしっかりとコミュニケーションを取るようにしています。下の意見をつぶさずに、事実を話した上で、お互いをリスペクトしたやり取りをするように心がけています。最終的には、チームで話し合った結果を親方にあげて、アドバイスをもらうようにしています。

いい焼きにするために重要な一流店の串打ち

― 焼鳥は串打ちが重要とよく耳にしますが、串打ちで意識していることをありますか?

大平氏 親方の炭の組み方に対して焼きやすいように串打ちをしています。具体的には、肉の中心部分を貫くように刺すことで、旨味が逃げにくくなります。何も考えずにだた打っているだけだと、重心がズレてしまい、焼いているときにクルクルと回ってしまうので、そこには注意が必要です。あとは、炭の位置によって火力が違うので、それに合わせられるように、素材によっては菱形変形のフォルムにして肉の厚みを変えているのが『鳥しき』のスタイルです。

― 焼きに関しては、見て覚えるスタンスですか?

大平氏 今はなかなか見て覚えるというのは難しい時代になっていると思います。2番手になったころから、実際に親方に横についていただいて、論理的に焼き方を教わりました。具体的には、『鳥しき』スタイルの「強火の近火」で焼くために、うまく水分を閉じ込めた上で、しっかり火が通るように焼き上げることを意識するなどです。実際に営業で焼く場合は、『鳥しき』の屋号では親方しか焼台に立たないので、『鳥かど』として営業したときに、初めてお客さんの前で焼かせていただきました。

強火の近火で焼き上げ、肉の旨味を閉じ込めた「かしわ焼」。

師匠の言葉を肝に銘じ、夢の実現に向けて次のステージへ

― 3年間の修業のなかで、池川さんからかけていただいた印象な言葉はありますか?

大平氏 2つありまして、一つ目は「24時間は平等で、時間は有限なので限られた時間のなかでどれだけ考えることができるかが大事」。二つ目は「一事が万事」。小さい約束が守れなければ大きいことはできないですし、最終的には信頼関係にもつながっていくので、これらの教えは肝に銘じています。

― 今年の10~11月に、麻布台ヒルズの店で大将を務めると伺っていますが、店づくりも含め、今後の展望をお聞かせください。

大平氏 麻布台ヒルズのメニュー構成は串12本、一品料理3~4品、〆の一品、デザートのコース仕立てですが、一品料理で私のオリジナリティを出して良いとなりまして、一度はやってみたいと考えていたタコスを入れる予定です。このタコスは、現在の『鳥かど』でもお出ししていまして、トルティーヤの上にスパイスを合わせた鶏肉、メキシコ産のアボカドをのせ、サルサソースをかけたもので、具材をトルティーヤで包んで食べていただきます。鶏の旨味が感じられる一品で、お客さんからも好評をいただいています。鳥しきスタイルの焼鳥をベースに、一品料理で個性を出した良いお店になるのではないかと思います。

今後の目標は、まずは麻布台ヒルズの店舗でしっかりと結果を出して自信をつけた上で、海外に行って「鳥しきICHIMON」の焼鳥を広めていきたいと考えています。

編集後記

取材後の率直な感想として、池川さんの熱量が相変わらず高いことと、人間力が磨かれた大平さんの誠実な対応から、本当に素晴らしい人材育成の場が作れているのだなと感じました。店舗展開に関しても、ビジネス思考で店を増やしたいのではなく、弟子の活躍の場を増やしたいという池川さんの思いの強さが伝わり、池川さんが本気だからこそ、本気で焼鳥を世界に広めたいという若者たちが集まってくるのだとも感じました。「価値を単価にのせる」という話がありましたが、食べ手としても、職人さんたちの努力の背景を知り、価値を理解できる人にならなければ、焼鳥職人だけでなく、飲食業界に携わるすべての方々の社会的地位を上げることはでないと感じ、食べ手としての在り方も学ぶことができました。5年後、10年後、「鳥しきICHIMON」が世界でどのような活躍をみせるのか。その未来に胸が膨らみます。

【取材・文】 白石直久

次世代を担う若手料理人とそれぞれの想いをアメリカン・エキスプレスは応援しています。


今回ご紹介したレストランのご予約は
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ご予約はこちら

※取材した大平 貴紀氏は、2024年4月現在鳥しきICHIMONが新たに麻布台ヒルズにオープンした『鳥おか』にてご活躍されています。

※アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. が日本で発行するプラチナ・カード(提携カード、ビジネス・カード、コーポレート・カードを除く)が対象です。

※「Next Star Chef」は、ハイクオリティなレストラン予約サービスを提供するポケットコンシェルジュが運営しています。




Next Star Chefのご利用はプラチナ・カードで。
プラチナ・カードにご入会いただくと上記のようなダイニング優待をはじめ、様々な特典やサービスをご利用いただけます。是非ご入会をご検討ください。

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