2018年10月6日、83年間の歴史に幕を閉じた築地市場の場内は、同月11日に豊洲市場で再スタートを切った。移転後も世界有数の取り扱い規模を誇ると言われ、特に水産物エリアのマグロは花形だ。そんな中、ここ数年で銀座の高級鮨店を始め、日本全国から注文が殺到し、いまもっとも勢いがあると言われてるのがマグロ専門仲卸「やま幸」。現在では、マグロだけでなく、高級鮮魚の専門店やレストランなど幅広い事業を展開している。
なぜ、多くのレストラン関係者が「やま幸」で魚を買うのか。この内容に関しては、ポケットコンシェルジュのブログにて紹介している、株式会社やま幸 代表取締役の山口幸隆氏のインタビュー記事をぜひご一読いただきたい。
【特別インタビュー】「夢あるところに行動ある」。マグロ専門仲卸「やま幸」代表・山口幸隆の信念とは〜インタビューの中で印象的だったエピソードを一部ご紹介〜
マグロに夢中になった当時を振り返る
昔、春先に紀州の勝浦で獲れたもので、見た目がキレイですごく美味しそうだけど、味が私の好みではないマグロがありました。それをお客さんに卸したら「いいマグロだよ、素晴らしいね!」と喜んでいただけたのですが、食べてみたらあまり美味しくなくて。ただ、一方で当時はまだ付き合いが少なかった銀座の高級鮨店に、春先に佐渡の定置網で獲れたマグロを卸したら、22時ぐらいに電話があり「いますぐ来い!」と呼び出されたことがあって、駆けつけてみると、そこには真っ黒に変色していたマグロがありました。それを「食ってみろ!」と怒られながら食べてみたら、そのマグロがすごく美味しかったんです。定置網のマグロは、少し時間が経つと黒く変色しやすいのが特徴の一つですが、「いいマグロと美味しいマグロは違う」ことを体験したことで、マグロに夢中になっていったのを覚えています。それから、いろんな産地でマグロがどのようなエサを食べているのかなど、いろいろと興味が湧いてマグロの勉強をするようになりました。
いいマグロと美味しいマグロとは
私が美味しいと感じるマグロの特徴からお話すると、まずは「香り」です。特にマグロの赤身を食べたときに感じる、鼻から抜けるマグロ独特の香りの豊かさがあればあるほど美味しいです。これを別な表現で「味がある、味がない」などと言ったりもします。あとは、身の柔らかさや脂のバランスですね。脂が多すぎると香りが弱くなるので、美味しいマグロではなくなってきます。
香りを一番楽しめる季節は春ですね。私が一年を通して一番美味しいと思うのは春先に獲れるマグロで、赤身は赤身、中トロは中トロ、大トロは大トロの味がしっかりとするものです。その他の季節であれば、マグロのブロックの断面を見たときに、赤身、中トロ、大トロの境目が少ないグラデーション状なものが好きです。もちろん、脂のバランスは重要です。美味しいマグロは、重量でみると150kg以下の小さめのマグロが多く、特に定置網で獲れたものが私の好みです。脂がのってくる時期は香りが弱くなりますが、冬は脂を楽しむとき、春は香りを楽しむときだと思います。四季を通じてそういうものを楽しむのが日本の食文化ですね。
それに対して「いいマグロ」とは、「見た目がいいマグロ」といった感じでしょうか。見た目が大きく立派、切り身の色も時間が経ってもキレイなままで脂ものっているようなものです。ただ、どのマグロを選ぶかはお店の提供スタイルによりますので、好みの問題ですね。
取引先の鮨店に食べに行き、その店に合ったマグロを決める
その店のシャリに合うものを卸さないと美味しい鮨にはなりませんので、できるだけ食べに行くようにしています。最近は強いシャリが流行っているものの、それが少し過剰になってきていると思うこともあります。ですので、食べに行った際には「旨いものは旨い、まずいものはまずい」とはっきり言うようにしています。
シャリに関しては、ずっと前からいろいろな鮨屋の大将に言っていますが、はるちゃん(『青空』高橋青空氏)が、店をオープンしたときにすごいなと思ったのが、まだまだお客さんを入れていないときに、たしかシャリを3回炊いていました。つまり、何時に来店した人でも同じ鮨が味わえる。それは完成度が高いですよね。新井君(『鮨あらい』新井祐一氏)なんかも、いまでは4〜5回炊いているんじゃないかな。シャリに砂糖を入れるのなら話は別ですが、酢は揮発性があるので、酢と塩だけのシャリはごまかしがきかない。だから、取引先の鮨屋さんに食べに行くときは、シャリはまめに炊いた方がいいと伝えたりもしています。それをもったいないからといって使っていても、お客さんが来てくれなかったら意味がないんです。
あと、お店が気に入っているマグロがあるならば、そのレベルに到達しなければ絶対に売りません。それが取引をする条件ですね。状態が悪かったら交換するから持って来て欲しいと伝えています。お店には、お客さんが楽しみにくるわけですから。ポケットコンシェルジュさんもそうだと思いますが、食べに行く人は期待を持って予約しますよね。私も食べることが好きなので、そんな期待を裏切ったら申し訳ない。お客さんを後悔させたら今日という日は取り戻せない。だから、状態が悪くなったら交換。それがお店との信頼に繋がっていると思います。
今回のインタビューで、山口社長のマグロに対する飽くなき情熱を感じた。さまざまなレストランは、その熱意や思いやり、目利きのセンスに惹かれ、いまもなお取引を続けているのだろう。
また本編では、そんな「やま幸」のマグロを使用しているポケットコンシェルジェ掲載店舗を紹介。
構成:ポケットコンシェルジュ編集部
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